裁判所のIT化・その2 弁護士 江幡 賢

1 平成29年10月30日に,内閣官房が,日本の民事裁判の手続などにIT化導入を検討する有識者の検討会を発足すると発表しました。

以前の私のコラムでは,東京地方裁判所で,当日開かれる期日を検索できるタブレット端末が試験的に設置されることになったという話題を取り上げましたが,やはり,昨今のIT化の流れは,今後,民事裁判の世界にも大きく影響しそうな気配があります。

2 首相官邸のホームページに公表されている資料によれば,平成29年6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017」に,「迅速かつ効率的な裁判の実現を図るため,~利用者目線で裁判に関わる手続きなどのITを推進する方策について速やかに検討し,本年度中に結論を得る」とされ,これを受けて,裁判手続等のIT化検討会を開催することになったと説明されていました。

その背景には,世界銀行が作成する,ビジネスのし易さの指標である「ビジネス環境ランキング」で,日本の裁判所手続の質の指標が,OECD(経済協力開発機構)加盟35か国のうち23位と,低く評価されたことが影響しているようです。

公表されている資料には,特に,電子的手段による申立て,電子的手段による裁判費用の支払い,判決の公開,時間的基準,などといった,「事件管理」「裁判の自動化」といった項目で低く評価されていました。

興味のある方は,是非ご覧ください。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html

3 現在,日本の裁判における書類の提出は,基本的に紙媒体での提出となっています。一応,「準備書面」など,裁判で提出する書類の多数は,FAXで提出してもいいことになっていますが,「訴状」「反訴状」「控訴状」などは,紙媒体の書面を実際に裁判所に提出しなければなりません。

したがって,地方の裁判所への書面提出となると,郵送で数日を要することもざらにあります。電子的方法による訴状等の提出が認められれば,利便性が上がるだけでなく,時間の短縮にもなるかもしれません。

また,民事裁判が長期化する理由には,原則として,当事者双方が期日に出席しなければいけないという原則が少なからず影響しているようにも思えます。

例えば,次回の裁判期日を決める際に,裁判所,双方の弁護士の都合が合わず,次回期日が先延ばしにならざるを得ない事態もしばしば見受けられます。

そこで,何らかの簡易な手続きによって,裁判期日を実施することが出来れば,裁判期間の長さが短縮することもあるかもしれません。

もっとも,裁判審理の中心をなす「口頭弁論」が形骸化してしまい,十分な審理が行われないと意味がありませんので,十分な審理を尽くすための丁寧な手続と,利便性や時間短縮といった要請との調和をどのように図るかといった問題が難しいところなのだと思います。

ともあれ,日本の裁判手続にもIT化の波は間違いなく押し寄せています。世界的にも,裁判手続の使いやすさは,ビジネスのし易さの一つの指標となっているのですから,日本の裁判手続の使いやすさも,世界と同レベルの水準まで何とか引き上げる必要があるのではないでしょうか。

 

投稿者プロフィール

江畑  博之
江畑  博之
昭和56年新潟県燕市生まれ。平成14年新潟大学工学部化学システム工学科へ入学。卒業後、平成18年東北大学法科大学院入学する。司法試験に合格後は最高裁判所司法研修所へ入所し弁護士登録後、当事務所へ入所する。交通事故被害者が適切な賠償額を得られるよう日々、尽力している。
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昭和56年新潟県燕市生まれ。平成14年新潟大学工学部化学システム工学科へ入学。卒業後、平成18年東北大学法科大学院入学する。司法試験に合格後は最高裁判所司法研修所へ入所し弁護士登録後、当事務所へ入所する。交通事故被害者が適切な賠償額を得られるよう日々、尽力している。
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