「全損」の場合における時価額の算定方法
「市場価格方式」が原則
判例は「中古車が損傷を受けた場合、当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によつて定めるべき」という立場をとっています(最判昭和49年4月15日交民集7巻2号275頁)。
この「中古車市場において取得しうるに要する価額」が何かというと、実務上、オートガイド社が発行する「自動車価格月報」、いわゆるレッドブックをもとに算定をすることが一般的です。
古い車の場合の算定方法
古い車の場合はこのレッドブックに掲載がないことがあります。このような場合、減価償却の方法を参考として時価額を認定します。
自家用自動車の耐用年数は6年で、定率法により減価償却した6年後の残存率は10%ですから、新車価格の10%を被害車両の時価額と認定をするわけです(東京地裁平成13年4月19日交民集34巻2号535頁)。
たしかに、ある程度年式が古くなって走行距離も多いと、0円にしかならない(むしろ引き取りにお金がとられる)ケースもありますが、そうはいっても現実に走行が可能な以上は0円と言い切ることは難しいわけです。そこで、新車価格の1割を損害として認定するわけですね。
中古車販売店の価格を参考にする場合
「新車価格の1割を賠償されても、同じ程度の車両を中古車販売店で買うのは難しい」と思われると思いますが、それはそのとおりです。なぜなら、中古車販売店が設定する価格には、車の時価額を超えた利益等が含まれている場合があるからです。
インターネットで中古車販売のページをご覧いただければわかりますが、同じ車両であっても、販売価格にとても開きがあることが多いです。
実際、中古車を検索するときは、メーカー、車種、グレード、年式、走行距離等の主要項目の設定はできますが、どの程度の状態であるのか等の設定が難しいですよね。被害車両とどこがどのように共通するのかを認定するのが困難です。
そのため、インターネットの中古車販売価格から車両時価額を認定することは難しい場合が多いです。
特殊車両の場合
商業車等の特殊車両の場合は「レッドブック」に掲載がありませんし、中古車市場も形成されていないことがあります。
この場合は法定耐用年数ではなく一般的な使用期間を考慮した減価償却を行ったり、特殊装備があればその分を加筆する等して算定をします。
作成2020年12月14日
江畑 博之
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