被害者も刑事裁判に関与したい~被害者参加制度について~
はじめに
刑事裁判は、検察官、被告人、弁護人、裁判所が関わる手続きであり、被害者の方が参加するということが基本的にはありません。
被害者の方は、警察や検察に対して事情を説明し、その内容が記載された書面(「供述調書」といいます。)が証拠として提出されるだけ、ということが一般的です。
しかし、被害者の方としても刑事手続きに参加をして、直接、加害者(被告人)や裁判官に対して自分の想い、心情を伝えたいと考えるのが自然な感情です。
このような背景から、一定の事件について、被害者や遺族の方が刑事裁判に参加することができるようになりました。これを「被害者参加制度」といいます。
この記事では、弁護士が被害者参加制度について解説いたします。
被害者参加制度とは?
被害者参加制度は、一定の犯罪について、被害者やご家族(ご遺族)が、加害者(被告人)の刑事裁判に関与できる制度です。
刑事裁判の審理(公判期日)に出をしたり、直接被告人に対して質問をしたりすること等ができます。
どういった事件に被害者参加制度が適用されますか?
被害者参加制度が適用される犯罪は以下の7つの犯罪類型に限定されます。
残念ながら、あらゆる犯罪に適用されるわけではありませんので、例えば窃盗や詐欺等の事件では被害者参加をすることができません。
①故意の犯罪行為により人を死傷させた罪(例 殺人、傷害など)
②強制わいせつ、強制性交などの重大な性犯罪(痴漢や盗撮等の迷惑行為等防止
条例違反は含まれません)
③業務上過失致死傷罪、重過失致死傷罪
④逮捕・監禁
⑤略取・誘拐・人身売買等の罪
⑥上記②~⑤を含む他の犯罪
⑦上記①~⑥の未遂罪
⑧自動車運転過失致死傷罪など
例えば、交通事故の被害に遭い、被害者の方が死亡した場合は、上記の⑧に該当するため、ご遺族の方は被害者参加をすることができます。
どういった人が被害者参加を利用することができますか?
・被害者本人
・被害者の配偶者、直系親族、兄弟姉妹(※被害者が死亡、心身に重大な故障がある場合)
・被害者の法定代理人
なお、上記の方から依頼を受けた弁護士も被害者参加に参加することができます
(「被害者参加人代理人弁護士」といいます。)
被害者参加制度を使うとどのようなことができますか?
被害者参加制度を利用すれば、刑事裁判の経過を直接知ることができますし、被害者・家族(遺族)としての意見を述べること等が認められます。
~被害者参加制度でできること~ ①法廷内の検察官と同じ席(隣や後ろなど)に座ることができる ②検察官の活動の一部について意見を述べることができる ③証人尋問をすることができる ④被告人に対して質問をすることができる ⑤裁判所に対して意見を述べることができる |
①法廷内の検察官と同じ席(隣や後ろなど)に座ることができる
裁判所の法廷は、傍聴席と審理を行う法廷部分とが柵で区切られており、検察官、被告人、弁護人、
裁判官、書記官以外は柵の内側に入ることはできません。
傍聴席から観ることができるにとどまります。
これに対し、被害者参加制度を利用することで、この柵の内側に入り、検察官に近い席から裁判に参加することができます。
②検察官の活動の一部について意見を述べることができる
刑事裁判では、検察官のみが被告人の犯罪行為について裁判官に審理を求めることができます。
証拠の提出や被告人に対する求刑も検察官しかすることができません。
これに対し、被害者参加をすることで、被害者側は、検察官の提出する証拠や求刑の内容に説明を求めたり、意見をすることができます。
③証人尋問をすることができる
被害者は、情状証人に対して、証人尋問を行うことができます。
情状証人というのは、犯罪事実の証明をする場合の証人(例 目撃者、共犯者など)とは異なり、例えば、被告人の家族や雇用主等が今後の被告人の監督を行うことと証言をする場合の証人のことです。
ただし、事前に裁判所の許可を得る必要があります。
④被告人に対して質問をすることができる
被害者は被告人に対して直接質問をすることができます。これは犯罪に及んだ動機や犯行状況などについて質問をすることもできます。ただし、何を言ってよいわけではなく、質問をしたい事項については、あらかじめ検察官に提出をした上で、裁判所から許可を得なければなりません。
裁判の中で思いついた内容をダイレクトに質問できるわけではありません。どうしても聞きたいことがある場合は、検察官に相談をして、検察官を通じて質問をすることもありえます。
⑤裁判所に対して意見を述べることができる
意見陳述といいます。これは、裁判官が証拠を調べたり、検察官や弁護人の主張が終わったのちに、
事実や法の適用について意見を言うことができます。
被告人の罪は懲役何年が相当です、という意見を言うことも可能です。
自分で直接述べることができます。
これと似たような制度に「心情等の意見陳述」というものがあります。
これは、法律的な意見ではなく、被害者や遺族のお気持ちを述べることができます。
法律的な主張は検察官に任せて、心情等の意見陳述のみを行う、と言うことも可能です。
被害者参加については、まず弁護士にお気軽にご相談ください。
交通事故の被害にあい、重度の後遺障害を負った、あるいは、大切な人の命が奪われてしまたった、
このような場合にどうしても想いを伝えたいという場合、被害者参加のご検討をお勧め致します。
もちろん、被害者参加は、あくまで裁判の一端に参加するものであって、最終的な判断が裁判所であることに変わりはありません。
しかし、ご自身が直接被告人に質問をしたり、裁判官に向かって意見を述べることができることで、一つの心情的な区切りにつながる場合もございます。
被害者参加をお一人で対応することは非常に大変です。
当事務所では、被害者参加の代理人として参加した経験があります。このような経験をもとに、被害者の方に適切なサポートを行うことができます。
被害者参加や損害賠償請求など、加害者に対してどのようにかかわっていくのかについてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
江畑 博之
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