危険運転致死罪に関する判決について 弁護士 五十嵐 勇

2017年6月東名高速での執拗なあおり運転の末に起きた死亡事故をめぐり、危険運転致死傷などの罪に問われてきた被告人石橋和歩について、2018年12月14日、横浜地裁は危険運転致死罪の成立を認め、検察側の求刑23年に対し、被告に懲役18年の実刑判決を言い渡しました。

裁判の中で被告人側は、危険運転致死罪はこの事件では適用できない等として、無罪を主張していました。

おそらく、この交通事故が報道されたとき、多くの方が「明らかに危険運転だ」「殺人罪だ」と思われたことと思います。心情的には、私も同様です。全く許されるべき行為ではありません。

それでは、なぜ被告人側は無罪の主張をしたのでしょうか。

危険運転致死傷罪にはいろいろな類型があり、今回問題となったのは「妨害運転類型」です。

要件を簡単に挙げると、①人又は車の通行を妨害する目的で、②走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、③重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為、④要件①~③の危険運転によって死傷結果を生じさせたという因果関係です。

今回の事故では、石橋被告が被害者の車両を追い越し車線上に止めた後にトラックが後方から衝突したわけですが、このトラック衝突時に被害車両が完全に停止していることから、③の要件を満たさないのではないかと考えられるのです。

弁護人は、直接、被害者の死亡につながっているのは、高速道路上に停車させた行為であって、これ自体は停止しているのだから「運転」じゃない、という趣旨の主張をしていたとのことです。

このような主張に対して、裁判所は、被告人の車が被害者の車の前に出て被害者の車両を停車させたという行為自体は危険運転行為ではないが、その前の妨害行為を危険運転と判断しました。

次に問題となるのが要件④です。

弁護人は、妨害運転で死傷が生じたわけではなく、直前停止+暴行という妨害運転後の別な行為の危険性が現実化したとみるべきであって、それにも拘らず死傷の結果との因果関係を認めると法の抜け穴を許すことになる旨の主張をしていたようです。

裁判所は、停止させたこと、暴行したことを一連の行為と捉え、「事故発生の危険性を現実化させた」と指摘して、被告の運転と事故発生との因果関係を認めました。

背景にあるのは、被告が一貫して暴行を加えようという意思を有していたこと、時間的場所的近接性などが考慮されているものと思われます。

以上のような理由から裁判所は危険運転致死罪の適用を認めましたが、検察側は、危険運転致死罪が認められない場合に備えて監禁致死罪の主張をしていました。それだけ適用が微妙な事件であったことが伺われます。

この事件は、弁護人が控訴をしたとの報道がなされ、今後控訴審がひらかれることになります。東京高等裁判所がどのような判断をするのか、注目しています。

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