傷害慰謝料基準(別表Ⅱ)の改訂について  弁護士 五十嵐 勇

前回は「死亡慰謝料算定基準の改訂について」というコラムを書きましたが,今回は傷害慰謝料の基準,特に多くの交通事故で問題となるむち打ち症による通院の際に用いる別表Ⅱの使用方法が改訂されたことについて取り上げたいと思います。

傷害慰謝料とは

傷害慰謝料は,文字通り,交通事故によりケガを負ったことによる精神的苦痛について支払われる損害賠償金です。実務上,入通院期間や通院日をもとに計算します。そのため,「入通院慰謝料」と言ったりもしますが,入通院するだけでなく日常の苦痛もカバーするものですので,このコラムでは傷害慰謝料と言います。

改訂内容

変更前 「むち打ち症で他覚症状が無い場合は別表Ⅱを使用する。この場合,慰謝料算定のための通院期間は,その期間を限度として,実治療日数の3倍程度を目安とする。」
変更後 「むち打ち症で他覚所見が無い場合入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用する。通院が長期にわたる場合は,症状,治療内容,通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。

まず大きく変わった点は,別表Ⅰと同様に,入通院期間を基礎として算定すること変更された点です。

例えば,6か月間1週間に1回の頻度で通院したケース(1か月を4週間で計算)で説明します。

これまでは,実通院日数の3倍で計算する方法が原則でした。そのため,上記例では1(回)×4(週)×6(か月)×3=72(日),すなわち2か月と12日間通院したものとして損害額を計算していました。そうすると,通院した期間(6か月)と比べるとかなり短期間の通院であったという扱いとなり,実態とのかい離が生じてしまうことがわかります。

今回基準が改訂された理由も,裁判例の傾向として,通院期間が短期の場合には別表Ⅱで算定した額より高額な慰謝料が認定される傾向があったとされています。

今後は,実通院日数ではなく通院期間をもとに算定するケースが増加し,より実態に則した算定となるのではないでしょうか。ただ,実入通院日数の3倍を目安にするという計算方法が排除されたわけではないため,今後の運用を注視していく必要があります。

他の変更点としては,別表Ⅱを用いる場合が明確になったことです。これまでは,「むち打ち症で他覚所見が無い場合」に用いるとしか書かれておらず,実務上,打撲のような場合には別表Ⅱを用いてきましたが,この実務の扱いが明確化されました。

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投稿者プロフィール

江畑  博之
江畑  博之
昭和56年新潟県燕市生まれ。平成14年新潟大学工学部化学システム工学科へ入学。卒業後、平成18年東北大学法科大学院入学する。司法試験に合格後は最高裁判所司法研修所へ入所し弁護士登録後、当事務所へ入所する。交通事故被害者が適切な賠償額を得られるよう日々、尽力している。
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昭和56年新潟県燕市生まれ。平成14年新潟大学工学部化学システム工学科へ入学。卒業後、平成18年東北大学法科大学院入学する。司法試験に合格後は最高裁判所司法研修所へ入所し弁護士登録後、当事務所へ入所する。交通事故被害者が適切な賠償額を得られるよう日々、尽力している。
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